壁式構造の中古マンションでしかつくれないユニークなリノベーション空間5選
中古物件を探していると「壁式構造」という言葉を見たり、聞いたりすることがあると思います。
実はマンションには「ラーメン構造」と「壁式構造」という2つの構造があり、一般的には壁式構造の方が、大掛かりな間取り変更を伴うリノベーションには不向き、と言われています。
「ラーメン構造」は柱と梁といった枠組みで建物の構造を支えていますが、「壁式構造」は壁で建物を支えているため、屋内にも耐力壁と呼ぶ撤去できない壁があるからです。
しかし、本当に「壁式構造」はリノベーションには不向きなのでしょうか。
この記事では壁式構造について、その特徴を学ぶとともに、壁式構造ではどのようなリノベーションが可能なのかを、いくつかの実例を参照しながら説明します。
「この物件は壁式構造です」といわれて、え?とならないように、壁式構造でできること、できないことを具体例に基づいて学んでいきましょう。
制約のある壁式構造でしか生まれない、リノベーションのアイデアや魅力があることを知っていただけると思います。
読み終わって「へー壁式構造って、思ったよりリノベーションの可能性があるんだ」と思っていただければ幸いです。
目次
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1.壁式構造のマンションは、壁で建物を支える低層住宅
壁式構造は柱や梁がなく、建物を支えているのは耐力壁(たいりょくへき)と呼ぶ、コンクリートの壁です。外壁や戸境の壁は当然ながら、屋内にも部分的に耐力壁があります。
下図をご覧いただくとわかりますが、耐力壁には2種類あり、床から天井まで貫いている耐力壁と、「下がり壁」といって天井から数10cm下がっている壁があります。門のような見かけになっている場所が、屋内に何箇所かありますね。
このような壁式構造は、5階建てくらいまでの低層マンションに見られる構造です。古い低層の公営団地にも多く採用されています。
一方で、マンションに多いのは「ラーメン構造」。この構造は柱と梁で建物を支えていて、その部分を撤去したり移動することはできませんが、部屋を仕切っている壁は外壁と戸境の壁以外、ほぼ撤去が可能です。そのため、間取り変更の自由度が高いのです。
柱や梁のあるラーメン構造に関する詳しい内容はこちらの記事をご覧ください。
2.壁式構造の一般的なメリット・デメリット
2-1.一般的なメリット・デメリット
壁式構造について一般的にいわれているメリットは、壁で支える構造のため、古いマンションでも地震の揺れに強いということです。
また、屋内に柱と梁の出っ張りがなく、部屋の隅まで目一杯有効に使えるのもメリットです。見た目にも出っ張りがないのですっきりしています。
一方で、壁式構造のデメリットといわれているのは、住戸内にも撤去できない壁があるため、間取り変更が難しいということです。リノベを考えている人にとっては、この点が最も気になるところでしょう。
では、壁式構造は本当に間取り変更が難しいのでしょうか?
撤去できない壁という制約はもちろんあります。しかし、その壁の存在を感じさせないようなアイデアで間取り変更を実現した事例もたくさんあります。
2-2.壁に囚われない設計力が、豊かな空間づくりのカギ
壁式構造の中古マンションでありながら、ダイナミックな間取り変更を行い、新しい暮らしの器をつくる一番のポイントは、「壁の存在に囚われないアイデアと設計力」です。
既存の壁式構造の中古マンションは、撤去できない壁に合わせて部屋が構成されているのがふつうです。そのため、リノベーションをする際も、その壁が部屋を仕切るものと考えがちです。
そうなると、キッチンはこの位置、リビングはここ、寝室はここ、と既存の状態から変化のないリノベプランになってしまい、せっかくのリノベーションの機会を活かすことができません。
では、実際にはどういったユニークなアイデアがあるのか、次章から壁式構造のリノベーションの事例を見ていきましょう。
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3.【事例で解説】壁式構造だからできるリノベーションプラン集
「壁が外せないのに、どうやって間取り変更できるの?」という疑問は当然です。
具体例を見ないと想像できないかもしれません。そこで、ここからは壁式構造でダイナミックな間取り変更を行った実例を紹介していきましょう。
事例1:美術館のようなホワイトキューブの空間に
デンマーク家具のコレクションがどこにいても見られる美術館のような空間。
1事例目は、壁をホワイトに、床をグレーに統一することで、家具の色合いが美しく映える、壁式構造のリノベーション事例です。
よく見ると撤去できない壁や下がり壁に気づくものの、あえて部屋を仕切らないことで、壁の存在を忘れてしまう開放的な住まいになっています。
むしろところどころに残る壁が空間にアクセントを与え、光と影が交錯する美術館の回廊を歩いているかのような穏やかな気分に。
下がり壁の下に仕切壁やドアを入れなければ、空間の連続性を保てます。リビングからダイニング、キッチンへと視線を遮ることがありません。
寝室からウォークインクローゼットに続く廊下は、左右の動かせない壁と下がり壁がありますが、あえて建具を入れないことで、開放感とプライベート感が両立していますね。
事例2:門のような壁で風景を切り取る
壁式構造の壁は、壁の厚さや下がり壁の長さなど、物件によって大きく異なります。
2事例目は、存在感が強めの下がり壁がありますが、空間を切り取る風景のように、壁を活かしている空間です。
この実例では、元がLDと和室にきっちり分かれていたものを、間の建具を外し、和室はリビングに変え、内装を統一してキッチン・ダイニングとひとつづきの空間にしています。
残った門型の仕切りが、食事スペースとくつろぎのスペースを心理的に分ける効果を発揮していますね。
また、キッチン側から見た下がり壁を利用して、ドライフラワーを飾ったり、左側の耐力壁は板張りにして、家族の写真や絵などの展示スペースとしています。
洗面室では、既存の空間よりも洗面室を広くするために、あえて下がり壁に合わせることなく、洗面室を広げています。
間仕切りを撤去したことで、撤去できない下がり壁だけが残りましたが、コンクリート面に照明を当てる演出を。洗面室とリビングの間は天井面までは仕切っていないので、間接照明の淡い灯りがリビングにも届く仕掛けです。
事例3:取れない壁をデザインのシンボルに
壁式構造で間取り変更を行う際は、建具や木製の壁を取り払うことで空間を連続させた上で、「残る耐力壁と下がり壁をどう演出するか」がテーマの一つになります。
3事例目は、T字のコンクリート壁をリビングのインテリアのシンボルとして活かした空間です。
この事例では、壁の下地も剥がしてコンクリートをむき出しにしています。電源用の配管を取り付け、時計を設置するなど、オブジェの趣に。
約90cmの耐力壁の裏側をぐるりと通り抜けられるような裏動線を確保すれば、既存の間取りにはないユニークな動線とデザインになります。
また、下がり壁の位置と合わせて、狭く閉ざされていた既存のキッチンは、大胆なオープンキッチンに。下がり壁の位置に囚われないことで、奥まって独立したキッチンがダイニングやリビングとコミュニケーションが取りやすい空間になっていますね。
キッチンの上の下がり壁が残っていますが、下がり壁を超えて棚を吊るすことで、視覚的な分断感を払拭することができます。
事例4:制約の高い水まわりを豊かに変える
古い団地は住戸内にタテ・ヨコに長めの耐力壁が入っていることが多く、間取りはその制約を受けがちです。
4事例目は、移動制限のある水まわりを、広く使いやすくデザインした団地リノベーションです。
この事例の場合、元の和室は長い耐力壁で完全に仕切られていて、スペースは固定されていました。そういう場合は思い切って「用途変更する」のもアイデアのひとつです。
耐力壁に囲まれた和室を広いサニタリーにし、ランドリーと家事室を兼ねた空間に。4.5畳とたっぷりのスペースを確保した浴室に続く洗面室へと変更しています。
また、こちらの事例の浴室は、もともと0.75坪程度と狭く耐力壁にがっちり囲まれていましたが、耐力壁を通り超えて移動し、希望だった1坪の広い浴室に変更しています。
耐力壁の外に浴室を出せるかどうかは、配管の延長ができるかどうかなどの要因で決まります。耐力壁内の水まわり=動かせない、と諦めず、設計者に相談してみるのも手です。
また、この事例のキッチンは配管の都合で移動ができませんでしたが、中央にステンレスのカウンターを設けることで、デザイン性の高いプロ仕様のキッチンにしています。
動かせない耐力壁があることによって、逆にほどよい独立感も保っていますね。
事例5:耐力壁を利用したユニークなキッチンレイアウト
最後に、「耐力壁を空間を仕切るための壁にしない」といった、少し斬新なアイデアを紹介します。
こちらの事例は、耐力壁内にあったキッチンを2つに分けて壁の内と外に設置するという、ユニークなリノベーション空間です。
コンロのあるキッチンを耐力壁内に設置、シンクのあるキッチンをリビングに設置し、耐力壁を挟んでL型に配置したキッチンです。
レンジフードは壁の内側なので、換気ダクトの問題はなく、壁で仕切られているので排気の吸い込みもよく、油ハネがダイニングのほうに飛ばないというメリットも。
モルタル仕上げの作業台もたっぷりスペースがあり、比較的近い位置にコンロがあるので動線的にもスムーズです。
一方リビング内にあるシンク側は、窓のほうを向いたことで作業中のビューもよく、コミュニケーションもしやすいですね。
シンク側、コンロ側ともに造作キッチンならではのアイデアです。
4.まとめ
壁式構造のマンションについて述べてきましたが、いかがでしたか?
そもそも壁式構造があるということを知らなかった方も、ある程度の知識をお持ちだった方も、この記事でかなり認識を深めていただけたのであれば幸いです。
「壁式構造の住まいはリノベーションに不向き」というのが一般的な考え方ですが、たとえ動かせない壁があったとしても、その制約の中だからこそ、思いも寄らない快適な空間を誕生させることができる、ということがわかりますね。
常識的な発想ではここで紹介したようなプランは生まれません。
アイデアを駆使してリノベーションを楽しんでくれる会社と一緒にプランニングを進めることが肝心でしょう。