【今と未来の結び方】vol.2 起業家・山内萌斗さん流「エシカルで彩る暮らし」
新しい暮らしを考えるということは、これからに向けて今をスタートさせること。ワクワクする未来をつくるために、今をどう紡いでゆけばいいのだろう。買って使う “暮らしのふるまい”を変えることで、サステナブルな仕組みをつくる山内萌斗さんに話を聞きました
すべての人にエシカルな暮らしを
“オーガニックが世界を救う” “サボテン由来の本格レザー”。タップしたくなるキャッチーなコピーが並ぶのは『エシカルな暮らし』のInstagram。社会課題のわかりやすい解説がすっと胸に入り込み、ストーリー性のあるエシカル商品が興味を引き寄せる。立ち上げ5カ月でフォロワーは1万人越え。それから1年ほどの今、4万人に達する勢いで伸びている。
新風を巻き起こしたのは、株式会社Gab(ガブ)CEOの山内萌斗さん。2000年生まれの学生起業家だ。「エシカルとは、人・動物・地球に優しいということ。すべての人がエシカルな暮らしを実践できる世の中にしたいんです」
リアルショップにも「なんだろう?」と気になるコピーが。なんと、バックパックは廃車のエアバッグなどで、ヨガバッグは植物由来のヴィーガン素材でできている
サステナブルが自分事だと気がついた
大学1年のとき、起業家育成プログラムでシリコンバレー研修に参加した山内さん。新事業のプレゼンをすると、思わぬフィードバックにハッとした。「これからの事業は、表面的な欲を満たすnice to haveではなく、もっと本質的な、人類の存続に必要不可欠なmust haveでなくてはならない、と言われたんです」
ソフトな履き心地で旬なデザインのパンプスが「ペットボトルで作られている」と言われてビックリ。ペットボトルが糸になるまでの加工見本も展示
今の大量生産・大量消費社会は、莫大な利益を生む一方で、生産過程で環境を破壊し、大量廃棄も生み出す構造。これからの時代は、既存の資本主義が壊してしまった課題に取り組んで社会貢献することによって、企業価値を認められるようになる。そうでなければ、2050年には地球規模の深刻な環境問題が起こって、今と同じ生活は送れない——。
そんな話を聞いて「めちゃくちゃ共感した」と山内さん。「自分が50歳で現役のうちにそうなるのかと思ったら、急に自分事になりました。生きていくためにも、世の中を根本から変えてサステナブルな社会にするしかない! そう思ってmust haveな事業を目指すことにしたんです」
取り扱うエシカル商品第1号を飾ったバックパック。「海洋プラスチック100%でできているから、商品を一つ作るたびに海の掃除をしているようなもの」
消費行動が変われば暮らしが変わる
着目したのは消費行動。物を買って使うことは暮らしに欠かせないけれど、環境問題と地続きでもある。だからこそ「全ての人が、人・動物・地球にやさしいエシカルな物を買うようになれば、地球も暮らしも変わるはず」。その信念を握りしめ、エシカル商品のオンラインストアや百貨店での常設店を展開してきた。
取り扱うのは、トレーサビリティが担保され、環境問題の解決につながる商品のみ。「ぼくらがエシカル商品を広めていくことで、他の企業も原料、作り手、作り方の裏側を開示して商品の透明性を担保するようになってほしい。そういうエシカルな世の中になるように、消費行動を変える仕組みづくりを考えています」
Instagram、オンラインショップ、ポップアップストアや常設店など、多面的にエシカル商品を展開している
モットーは楽しく無理なく
社会課題解決に取り組む人、という堅苦しさがない。それどころか、彼はライブに行く話でもするかのように目を輝かせている。カスタマーへのアプローチも同じだ。Instagramや売り場にはワクワクする世界観が広がっている。
「最初に感じてほしいのが “楽しさ”なんです。パッと目を引くデザイン性、価格に納得感のあるクオリティ、そして感動体験があること。たとえば、1点ものの可愛いアクセサリーが実は海洋プラスチックで作られているとか、コーラが実はコーラナッツなどのスパイスだけでできた本来の味だとか。直感的な喜びや驚きがある商品を選んでいます。
その次が“無理なく”。エシカル商品を毎日の暮らしに取り入れやすいように、手の届く価格と長く使える品質にもこだわっています。家でいうなら、中古リノベも手に入れやすい現実的な価格ですよね」
竹歯ブラシ385円、バンブーボディスポンジ528円と、誰もが使う日用品も、普段買っている物と大きな差を感じない価格だからエシカル商品に切り替えやすい
自社商品でエシカルな暮らしを実践している山内さん。「ワインづくりの過程で廃棄されるぶどうの枝からスーパーポリフェノールを抽出した美容液のおかげで肌がもちもちに!」
エシカルへの目覚めはライフステージが変わるとき
「カスタマーの8割は女性です。その多くは、結婚、出産などのライフステージが変化したタイミングで、家族の健康が気になり出して、食への関心が高まります。できるだけ体にいいものを食べようとオーガニックを意識し始め、環境にも目を向けるようになり、エシカルというワードにたどり着く。
子どものため、家族のためという気持ちが、暮らしを見直すきっかけになっているんです」。それは同時に、選択を見直すことでもある。「暮らしは1度きりの人生そのもの。だったら、選ぶことに手間を掛けてもいいよねって思います。それが家のような大きな選択なら、なおのこと」
しかしマーケティングをしてみると、固定観念で消費行動するケースが少なくないそう。だからこそ、問いかける。選んだ物が本当にそれでいいのか、それを選ぶことで失われているものはないのか。
炭酸で割るだけで “本来の味”に出会えるコーラ。コーラナッツなどの100%有機スパイスで作られている
成人女性に必要な1日分の栄養素が詰まったチョコレート。香料・保存料・乳化剤を一切使わず、ヴィーガン素材のみで作られたもの
思い込みにとらわれない選択を
「買い物の中でも、家は一生に一度の貴重な経験。家族みんなで話し合って手間をかけて家づくりすれば、愛着が生まれるかもしれない。巣立った子どもが帰りたいと思うようになるかもしれない。だとすると、固定観念によってテンプレート化するような、既存の型にはめた選択は、貴重な機会が失われてしまうことになります。
リノベは大変そうとか、新築のほうがいいという思い込みにとらわれず、別の軸もあったほうがいいですよね。
ぼくは消費を通じて、すでにある物を利活用することで環境問題を解決しようとしているので、中古物件を利活用してリノベすることには、同じ可能性を感じます。耐震性や安全性、価格面に優れているという点も魅力的。どんな物でも視野を広げて自分に合う物を選ぶことが大事だと思います」
肌触りのいいアイテムの素材は “アップルレザー”。ジュースを作る過程で捨てられる搾りカスや廃棄りんごを利活用
他者への貢献が幸せの本質
エシカル。感動体験。楽しく無理なく。山内さんの言葉からは幸福の香りがする。自然な笑顔が絶えない理由を訊ねると、貢献感を軸にしているからだと教えてくれた。
「中学・高校のとき、人間関係や教育のあり方にモヤモヤしていて学校生活がゆううつでした。でも、高2で空手部を立ち上げたら、先生や部員に頼られて気持ちが一転。自分は、誰かに必要とされることに強い喜びを感じることに気がついて、この幸せを最大化するには起業家になるしかないと思いました。
のちに、『人間は社会的な生き物だから、他者への貢献に喜びを感じる。それが幸せの本質』だという話も知って、軸が決まりました。エシカルって、みんなからありがとうと言ってもらえるもの。must haveな事業で人類規模の問題を解決できたら、人類からありがとうと言ってもらえます。そんな幸せなことってないですから」
ベトナム戦争によって残された地雷などの戦争廃材をジュエリーとしてアップサイクル。さまざまな角度からmust haveに取り組んでいる
目指すは “ありがとう人口” の最大化
生活の中で人々が自然に「ありがとう」と思える世の中になったら。人、物、資源、自然、そして地球に対してそう思えたら。それは真にエシカルな世界。「ありがとう人口の最大化を目指す」と宣言する彼こそ、最初のありがとうを差し出す人だ。
「ショップスタッフは全員、もともとはInstagramのフォロワーさん。いい取り組みに参加させてもらってありがとうと言ってくれますが、こちらこそ、理解・協力にありがとう、なんです。みなさん、いいことをしている自負があるから、お客さんが来てくれただけで感謝していて。その幸福感が表情や空気からお客さんにも伝播していくのを実感しています」
「幸福感の輪を広げて、世界的なエシカルムーブメントを起こしたい」。ハッキリと強い意志を言葉にするその表情は、やっぱり笑顔だ。
撮影:一井りょう
山内萌斗/MOETO YAMAUCHI 株式会社Gab CEO。2000年生まれ、静岡県出身。静岡大学情報学部行動情報学科2年次休学中。東京大学起業家育成プログラムEGDE-NEXT2018年度シリコンバレー研修選抜メンバー。Instagramアカウント「エシカルな暮らし」とエシカル商品に特化したオンラインセレクトショップ「エシカルな暮らしオンラインストア」を運営 |
- 『エシカルな暮らしラボ』-
エシカルブランドに特化した常設店舗をオープン。何がどうエシカルなのか、知って触れてリアルに体験。購入後も感想をフィードバックすると、ブランドがその声に応えて商品をブラッシュアップしていく実験的な場を提供している
場所:有楽町マルイ 6階イベントスペース
期間:2023年2月28日まで
※画像は8月25日撮影のポップアップストアになります。現状の常設店舗とは異なります ※常設店舗の展開フロアが変わることもございます
[ 聞き手 ]
樋口由香里
雑誌、書籍、広告の編集・執筆を行う。住宅に関わって20年。「住まいを考えることは暮らしを考えること」だから、この先の生き方や家族の関わりを見つめ直す機会にしてほしいと願う
\簡単30秒で申し込み完了/