[つぎのくらしは]vol.2 収納のプロが今を優先して選んだ住まい
どこに住む? どう暮らす?
心豊かな時が流れる
「つぎのくらし」の見つけ方
【今回、登場するのは…】 本多さおりさん - profile - |
“大き過ぎる持ち物は持ちたくない”
「いい中古マンションがあれば」と気負わずに物件探しを始めた本多さおりさん。新居の候補に、一戸建てははなから入ってなかったそう。マンションのほうが手に入りやすい価格だから。何かのときに手放しやすいから。
多くの人が感じるそうしたメリットに加えて、意外な理由も挙げた。「そもそも『大き過ぎる持ち物』を持ちたくないんです。私にとって一戸建ては、物理的に規模が大きい。丸ごと管理するのが大変だと感じました」
整理収納コンサルタントという仕事柄、管理する物を減らし、作業を効率化することを考えてきた本多さん。自分サイズの物を持つことの重要性を知り、住まいにもそれを求めていた。
キッチンの吊り棚は跳ね上げ扉で背の高い本多さんが使いやすい仕様。引き出しには子どもも取り出せる位置にカップやカトラリーを収納
物件探しで重要視したのは、緑の眺望があることと、間取りを好きにできること。検索サイトに予算・広さ・エリアを登録し、ゆるゆると探し続けたが、時が過ぎるばかりだったそう。
「出てくるのは、すでにリフォーム済みの中古物件ばかり。間取りを全面的に変えたいのでフルリノベが前提だから、リフォームをしていないほうがいいのですが、全然見当たらなくて。
条件に合うからと内見したのは、ほんの5件ほど。それさえ辺鄙な場所だったり、採光が悪くて暗い雰囲気だったり、木が窓に迫りすぎていて圧迫感があったり……。住みたいという気持ちになれませんでした」
南と東に大開口のある今の住まい。個室をなくして、各スペースを回遊できる間取りに変更し、効率よく家事をこなせる
WICに面したリビングダイニング側の木の壁には、グリーンや鏡を飾ってアートスペースに
“希望条件を外して探したらどうなるのだろう?”
子育てや仕事に追われながらの物件探し。必要に迫られていたわけではないから、条件に合う物件がなければ賃貸のままでもいいと思いつつ、「眠れない夜にふと思いついたんです」と、本多さんは楽しそうに回想する。
「面積や予算などの条件を全部外してみたらどうなるのだろうって。希望の大きなエリアだけ入れて、興味本位で検索しました。すると、安い物件から高額物件まで初めて見る情報が次々と出てきて。面白がっていたら、よく知ったマンションが売りに出ていました。
『あ、子どもとよく遊んでいる公園の前のマンションだ。ココなら絶対、緑が見える!』って好奇心が湧いて、すぐ見学に行ったんです」。それが今の住まいになる物件。条件を外したからこそヒットしたのだ。
毎晩寝る前に絵本を読み、寝顔を見届けたら、ようやく訪れる「自分時間」。物件探しもそんな隙間時間に眺めていた
「内見に行ったら、リビングに入った瞬間に気持ちいいなー!と思いました。マンションでも、高層階だと緑や地面が遠過ぎるし、低層階だと近過ぎる。ここは、ちょうど良い高さだから、公園で遊ぶ子どもたちを見下ろせます。周りにある木々のグリーンとも程よい距離感で、空が大きく広がって、視界が抜けるのも最高でした」
「パワースポットのように、日当たりと緑があることこそ贅沢。そんな『気の巡りがいい』家に出合えました」
体に心地よさを感じながら、頭の中で素早く考えを巡らせる。住んでいた家の近くだから、生活環境を変えなくて済む。ただし、専有面積が希望の70㎡以上ではなく、65㎡しかない。駅からもやや遠い。さあ、どうしよう……。
一番のネックは狭さだったが、それを補えるかもと思わせたのが、たまたま付いていた40㎡のルーフバルコニーだった。
「ここで子どもを伸び伸び遊ばせられる。緑も置ける。そんな暮らしのイメージがリアルに広がって、購入する最後のひと押しになったんです。ルーフバルコニーがなかったら、諦めていたかもしれません」
東側にルーフバルコニーと大きな窓があるから、室内にいても開放感たっぷり。「子どもたちの元気があり余っている時やケンカした時も、ルーフバルコニーは大活躍!」
“少し先の未来より、今を優先したい”
ルーフバルコニーがあったとしても、65㎡という専有面積が、子どもたちの成長とともに狭く感じる不安はなかったのだろうか。そう問うと、本多さんは軽やかに答えた。先のことは、そうなってから考えることにしたのだ、と。
「子どもは成長し、生活は変化するから、少し先の未来だってわからないと思うんです。いつか、親のお世話をすることがあるかもしれないし、そういうことにならないかもしれない。わからないから、今を大事にしよう!って」
夜は木製ボックスから引き戸を引き出し、寝室とリビングに仕切る。麻紐が巻かれた2本の化粧柱は、実は共用配管
朝は布団を片付けて寝室とリビングを一つの大空間に戻す。障子を開けて太陽の光を浴びながら外を眺めるのが習慣に
整理収納コンサルタントとして、何百件という住まいを見てきたからこそ思う。「子育て期真っ只中のご家庭は、どんなに家が広くても部屋が多くても、みんながいつも同じ空間でギュッとなって過ごしています。それは、家族がわちゃわちゃと楽しく過ごす期間。大変でもあるけれど、それこそがキラキラした時間なんだろうなって想像していました。
実際、男の子を2人育ててみて、ウチもやっぱりそうでした。だから、その特別な今を優先させたかったんです。公園が目の前なんて最高だし、ルーフバルコニーで思い切り遊ばせられて、学校や実家も近い。賃貸ではかなわない思い通りの間取りにもできる。当面、わちゃわちゃ過ごすのに、ここはベストでした」
子どもたちが帰宅したら、リビングはたちまち遊び場に。プレイマットを敷いてオモチャを広げるのがルーティーン
仕事、子育て、家事、自分の時間、そして夫婦の時間を行ったり来たり。全てがないまぜで、区切りのない日常が続いてゆく。
「家事をやりつつ、子供の面倒も見て、仕事をしてという『何かをしつつ』の毎日。この先も子どもが小学生のうちはそんな感じだろうと思いました」。忙しい本多さんにとって、必要なのは個室でも広さでもなかった。家族が視界に入るサイズ感。『何かをしつつ』がスムーズに行える間取り。それこそが中古リノベを選択した意味でもあったのだ。
洗濯してベランダで干すまで一直線の動線。壁には家事しつつ仕事しつつ使えるカウンターを造作
昼食はキッチンカウンターでテレビを観ながらサッと済ませる。「子どもたちが帰るとリビングで遊んでいるので、私はキッチンの死角に。少し姿を隠せることでホッとできます」
“夫の気持ちに気がつかなくて”
夫より在宅ワークが圧倒的に多く、住まいのプロでもある本多さん。夫が「君に任せるよ」というスタンスで、「それなら好きにさせてもらうね」とリノベプランをスタートさせたが、後半に差し掛かる頃、予想外の展開が待ち受けていた。
「希望を全て詰め込んだプランを出してもらったら、500万円予算オーバー。そこで不要なものを削って予算調整する中で、大谷石のアクセントウォールもその対象のひとつにしたんです。
帰宅した夫に『運搬費もかかるからコストカットのために大谷石をナシにしたよ』と事後報告したら、見たことない勢いで『ダメだよ!』って言われて。『なんで?』って聞いたら『大谷石は、オレのロマンだよ!』って(笑)。そ、そうなんだって驚きました」
玄関の正面に貼った大谷石。素材やインテリアへのこだわりはなく、内装のほとんどは設計士が提案したものだったが、大谷石だけは夫妻から希望した
彼にとって「絶対譲れない希望」だったことを知った大谷石は、別の部分で予算調整を行って、無事、プラン復活を果たしたそう。
家づくりを経て、思う。「口出ししちゃいけないのかなと、夫に思わせていたのかもしれません。この先住まいについて何か決めることがあるときは、もっと一緒に考えるようにしたいと思います」
夫婦で共通の趣味のひとつが器選び。陶芸家・柏木千繪さんの個展に2人で足を運んでは食器を買い足してきた。三角スツールは、千繪さんの夫で木工作家の柏木圭さん作
“必要以上にお金をかけなくても自分らしくできるよって伝えたい”
「住まいは暮らしのベース。衣食住の全てが詰まっている場所だから、健康であることと同じぐらい大事だなって思います。家の中がすさんでしまうと、心身にも影響があるんじゃないでしょうか。私は家を整えることが心のリセットになるので、特にそう感じます。
だから、新築よりずっと安く手に入れられて好きな間取りにできたのは、私たちにとって断然幸せな選択でした。家を検討中の方には、そんなにお金をかけなくても、自分らしい家を手に入れられる選択肢があるよって伝えたい」。
毎日、借景の緑を眺めているうちに、植物を育てることに挑戦したくなったそう。一つ鉢植えを増やすごとに小さな自信をつけていき、今では室内外にグリーンがいっぱい
撮影/一井りょう
ー DATA ー
物件竣工/2006年
リノベーション竣工/2020年
専有面積/64.64㎡
専有リノベーション面積/64.64㎡
家族構成/本多さん37歳、夫37歳、長男6歳、次男4歳
【 聞き手 】
樋口由香里
雑誌、書籍、広告の編集・執筆を行う。住宅に関わって20年。「住まいを考えることは暮らしを考えること」だから、この先の生き方や家族の関わりを見つめ直す機会にしてほしいと願う
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