建て替えってありますか?

築年数の古いマンションを見て、「そろそろ建て替えがあるのでは?」と思う方も多いかもしれません。 しかし、実際のところマンションの建て替えはほとんど起きていません。 法律上は可能でも、現実的には多くのハードルがあり、実現するケースはごくわずかです。
建て替えが難しい理由
まず、建て替えには莫大なコストがかかります。 今の建築コストや人件費を考慮すると、住戸ごとに3,000万円〜4,000万円程度の自己負担が必要になるケースが一般的です。 全員がこの金額を負担できるわけではなく、特に高齢の住民が多いマンションでは合意形成が難しくなります。
さらに、建て替えを実施するには区分所有者の8割以上の賛成が必要です。 住民の意見をまとめるのは簡単ではなく、1人でも強く反対する人がいると計画が止まってしまうこともあります。
土地や規模の条件も大きなポイント
建て替えが成立するマンションの多くは、もともと土地が広く、 再開発時に建物を今よりも大きく建てられるケースです。 たとえば、団地のように敷地に余裕があり、再建時に戸数を増やせる場合は、 販売収益で一部の費用をまかなうことができます。
しかし、都市部のように敷地が狭いマンションでは、 同じ規模で建て替えるだけでも費用を回収できないため、事業として成立しにくいのが現実です。
「建て替え」より「住み続ける」方向へ
こうした背景から、国や自治体も「建て替え」よりも「既存の建物を長く活かす」方向へシフトしています。 国土交通省は、老朽化した建物を再生・改修して使い続ける 既存住宅ストック活用事業に力を入れており、 新しく壊して建てるよりも、いまある建物を維持・再生することが推奨されています。
日本では長く「スクラップ&ビルド(壊して建て直す)」の考え方が主流でしたが、 世界的にはすでにエコ思考・サステナブルな再利用が常識です。 壊すよりも、メンテナンスやリノベーションで価値を高めていく方向へと変わりつつあります。
これからの時代は「住み続けるマンション」へ
今後は「古くなったら建て替える」ではなく、 50年・60年と住み続けることを前提とした時代になります。 実際、管理体制の整ったマンションでは、築50年を超えても快適に暮らしている事例が多くあります。
建て替えを期待するよりも、 建物を「どう維持していくか」「どのように再生していくか」を考えることが重要です。 修繕計画を見直し、リノベーションを通じて建物の寿命を延ばしていく。 それが、これからのマンションのあり方といえるでしょう。